第 4 章    テコンドー組織発達の歴史的経緯    ITF の課題


ITF の課題

元は大韓民国を宗主国とし、これまで各国に普及してきた ITF テコンドーの有力指導者の多くは派閥に関係なく、その歴史的事情から現在では欧米先進国と北朝鮮の指導者が多く目立ち、かつての宗主国師範となる、いわゆる「屈強な韓国人師範」は数えるほどしか見当たらない状況にある。ITF テコンドーの普及は現段階において「屈強な韓国人師範」が以下の様な理由によって必要である。

例えば FIFA のサッカーほど世界中への普及浸透率が高く、そして活動資金の豊富な競技スポーツでは、サッカー発祥国のイングランドよりもワールドカップ優勝の最多記録を持つブラジルやイタリアなどの代表選手、また、国に関係なく才能溢れるプレイが認められた選手であれば充分にサッカー普及の求心力的役割を担うことが出来る。

仮に、テコンドー競技がサッカー並みの普及と人気を博したとしよう。ITF の世界選手権やワールドカップなどで、ある欧米諸国の選手が最多優勝をしたとしても韓国を宗主国とし東洋的精神道徳を特に重要視する近代武道テコンドーではやはり欧米選手がサッカーにおけるような求心力的役割を担うことは難しい。これは欧米社会における東洋的精神文化への一般的理解が条件となるからに他ならない。

ITF では現在、国際的地位が不安定で自由に諸外国を行き来できない北朝鮮指導者よりも比較的自由に諸外国を行き来できる韓国人指導者の養成が急務となっている。現在、ITF テコンドーの普及に勤しむ北朝鮮指導者(チャン・ウングループに限る)の活動の場は旧共産圏やアフリカ諸国などで、尚且つ現在の北朝鮮と比較的友好な関係にある国に限定されており、先進国をはじめとする自由諸国ではほとんど彼らの活動の場は皆無に等しい。

現在、韓国国内では、チェ・ジュンファグループ、チャン・ウングループ、トラングループの ITF 系組織が在日韓国人師範をはじめとする諸外国師範の技術的援助に支えられ、その普及が進められている。しかし、これはまだ始まったばかりで「テコンドー」を国技と定め、すでにオリンピック競技として世界的地位を確立している WTF テコンドーの支配力に比べればまだまだ微力である。

オリンピック競技であり、国内に 3 万以上の道場を有し、300 万以上の国内競技人口を誇る WTF に対し一桁、二桁代の道場、クラブの数をもって「正当テコンドー」を主張しながら正攻法に渡り合うことは困難である。ましてや韓国国内で、三つ巴の ITF がその普及を展開し、互いに正当性を主張しながら WTF と渡り合うことは更に困難極まりないことである。WTF テコンドーの組織を構築し、発展させて来た功労者たちの多くはかつて崔泓熙総裁と敵対関係にあった者たちであり、彼らの息は至る所に吹きかかっている。また韓国国内において、朴大統領の時代から現在に至るまでテコンドーの創始者で愛国義士であるはずの故崔泓熙将軍の名誉が回復されていない。このように障害は大きく立ちはだかり ITF テコンドーの活動は大きく制約を受けている。

このような状況の下、世界で通用する前述の「屈強な韓国人」、いいかえれば、高尚な武道精神を備え、且つ技量に優れ、更に競技においては世間を納得させる結果を持つ武道家、この「屈強な韓国人」を輩出して行くためには、韓国国内における情熱的な韓国人指導者たちはもちろんのこと、各階、各層の協力と応援、また、何よりも彼らを多方面的に広く国際的見地からサポートして行ける国際機構 ITF とその傘下の会員たちの高い組織観念が望まれる。

Kim Seong-Deok
2006/06/30
※ 画像資料
左から 2 番目がトーマス・マッカラム事務総長
中央は故崔泓熙総裁 (1996)
トラン・トゥリュ・クァン総裁
(トラングループ / 2003)
チャン・ウン総裁
(チャン・ウングループ / 2003)
チェ・ジュンファ総裁
(崔重華グループ / 2002)

※ 「故崔泓熙総裁の遺言」

当時、ITF が発表した公式の遺言書は代弁人のファン・グァンソン師聖(9 段)が訳した英語文である。
崔泓熙総裁本人が直接書き記した遺言書ではなく、崔総裁が亡くなる直前に発した言葉を書き記したものとされている。

2002 年 6 月 11 日   午後 4:30 ~ 5:10   ピョンヤン病院にて
崔泓熙総裁の最後に居合わせた人の名簿
イ・キハ師聖 :(英国/韓国系)
/副総裁
トーマス・マッカラム師賢 :(オーストリア在住/スコットランド)
/事務総長
レオン・ワイミン師賢 :(グリーンランド在住/中国系マレーシア)
/諮問委員長
ファン・グァンソン師聖 :(米国/韓国系)
/代弁人、特別補佐官、統合委員長
パク・チョンス師聖 :(カナダ/韓国系)
/諮問委員
ファン・ジン師賢 :(在日韓国人)
/諮問委員
ファン・ボンヨン :(北朝鮮)
/朝鮮テコンドー委員会委員長、 アジアテコンドー連盟委員長
チョン・ジェフン :(北朝鮮)
/国際武道競技委員会事務総長、 朝鮮テコンドー委員会副委員長
ラ・ボンマン :(北朝鮮)
/朝鮮テコンドー委員会書記長、 アジアテコンドー連盟書記長
以上 9 名

公開された遺言の書全文   日本語訳:金省徳

「私は、この世に弟子が最も多い人間です。」
「私は一生涯にすべてを成し遂げたのだから、最も幸せな人間です。」
「皆さんが、ここに来ているので良かった。」
「チャン・ウン先生はここに来ていますか?」
「イ・キハ君、ここへ、そばに来なさい。うちの子供たちが君を一番好きだから、いいことだ。」

「皆さんはチャン・ウン先生を良く知って、もうチャン・ウン先生が前に出るときになりました。」
「チャン・ウン先生は背が最も高いだけでなく、ITF においても、最も高い地位で支えられることを願います。」
「私が、もし、チャン・ウン先生ぐらい背が高かったら敵も多くなっかたはずなのに、そうじゃなかったから敵も多かったし、だから苦しくて長い戦いをしなければならなかった。しかし、私は正義の側に居たから絶対に負けなかった。」
「私は、いつも総裁後継者について心配してきました。しかし、チャン・ウン先生がいて、私の気持ちが楽になりました。」
「ファン・グァンソン君、統合委員長として、代弁人として、君の任務は非常に大きく重要だ。テコンドーを統合して、ひとつにすることが私の願いだ。君が自己の任務を責任もって完遂することを願う。」
「パク・チョンス君は 1967 年にカナダへ移民し、その前にはヨーロッパでテコンドーを教えただろう。1972 年に私はわが子たちを残したまま、パク・チョンスが暮らしていたカナダに行きました。そのときはテコンドーが普及されなくて、そして私は私の棺の上にテコンドーという石字を彫ってくれと言いました。今は、テコンドーが大きく発展されてきました。」

「トム、I LOVE YOU   私は、彼が私より先に死ぬのではないかと、いつも心配しました。彼が先に死んだ場合に私は彼の家族を助けてあげる方法を探していました。
彼は ITF に特別な功労を立てました。私と彼の間に秘密はありません。あなたがしてきたことに対して本当にありがたく思っています。I LOVE YOU」
「レオン・ワイミン君は実に良心的な人物です。テコンドーの教育に多くの功労を立てました。私はこの人物がお金持ちなので、蒼軒財団で彼を抜擢しました。」
「ファン・ジン君は全鎮植さんの意志の通りよくやっています。そして、私は彼を諮問委員として任命しました。」
「諮問委員を 9 名へと増やしていただくようお願いします。」
「ここで私はチョン・ジェフン先生を任命します。」

「みんな、コリア無しではテコンドーの存在はありえません。このことを理解しなければなりません。国連の事務総長が黒人だからといって国連が黒人たちのものになりますか?そんな考えは捨ててください。
テコンドーは必ずコリアンが中心でなければなりません。
ジュンファが空港で私に嘘をつきました。
私は、また、だまされました。みなさんはインターネットを通じて私がジュンファを許さなかったと世間に広く知らせなければなりません。
私は父として彼を許したが、テコンドー家としては彼を決して許しませんでした。ジュンファが全世界のテコンドー人に謝るまでは絶対に許しを請うことはできません。
皆さんに幸せで、健康で、長生きしてくださいと伝えてください。

テコンドーは永遠に在ることでしょう。」

「遺言書」を伝えられた人たち

ファン・ボンヨン
/朝鮮テコンドー委員会委員長、アジアテコンドー連盟委員長
チャン・ウン
/IOC 委員、朝鮮体育指導委員会第一副委員長、国際武道競技委員会副委員長、
   朝鮮テコンドー委員会常任顧問
チョン・ジェフン
/朝鮮テコンドー委員会副委員長、国際武道競技委員会事務総長
   ITF 拡張委員会委員長
ラ・ボンマン
/朝鮮テコンドー委員会書記長、アジアテコンドー連盟書記長
イ・ヨンソク
/朝鮮テコンドー委員会副局長、国際武道競技委員会副事務総長
ファン・ホヨン
/朝鮮テコンドー委員会 8 段師賢
ペク・ミョンチョル
/朝鮮テコンドー委員会 8 段師賢

※ 資料:ファン・グァンソン師聖が ITF メンバーに伝えた手紙   2004 年 2 月 27 日

       

先週、私は ITF 事務総長および ITF スポークスマンの役職を辞任しました。それ以来、私に関して尋ねる多くの電話とメールを受け取っています。個別に返答できなくてすみません。私がした主張はチャン・ウンさんに関するものでした。私がこの問題を修正できないので、私自らが ITF に滞在するかどうかは、それほど重要ではありません。いろいろと試みましたが、私は ITF の問題を修正できません。チャン・ウンさんはすべてにおいて誤った行動をしています。そして、ITF 執行委員会のメンバーはチャン・ウンさんを助けています。チャン・ウンさんは何人かのメンバーを不法に昇進させました、そして、彼らの何人かがチャン・ウンさんによって副総裁に任命されました。チャン・ウンさんは、執行委員会のすべてのメンバーを任命できるように ITF 規約を変えました。

私は 1 年以上の間、これらの問題に関してチャン・ウンさんと話をしましたが、彼は変わっていません。そして、私は彼が将来変わるとは思いません。私は彼の辞任を求めて、手紙で 10 項目の主張をしました。これについてチャン・ウンさんは私にも他のどのメンバーにも何ら説明を一度もしたことがありません。韓国政府は金雲龍さんを起訴しています。 IOC は金雲龍さんを解任しました。みなさんは、北朝鮮の政府がこれに関して何かできると思いますか?

私は ITF を守るために、「この組織へ留まるべきか?あるいは離れるべきか?」を考え、そして、私の地位のすべてを放棄し辞任しました。

チャン・ウンさんは、ITF を守るために辞任しなければなりません。 1982 年にチェ総裁が、「神が彼を救った」と言ったのを忘れないでください。チャン・ウンさんが ITF 総裁の職務を引き継ぐとすぐに、北朝鮮に関するすべての秘密を守りました。2002 年から 2003 年にかけて行ったことを覚えていますか? 彼は、WTF との会談を始める良い立場を持っていましたが、それを破滅させました。今、WTF は新たに総裁を選出しました。そして、WTF は韓国政府から独立しています。われわれが新たな指導力と共に再開しなければならないといって私に期待しないでください。私は ITF を守る主要な人間ではありません。主要な人間はチャン・ウンさんであり、彼は ITF を守るために辞任しなければなりません。私たちの ITF は彼なしで先へ進まなければなりません。

ありがとうございます。

師聖 ファン・グァンソン